はじめに
フリーランスエンジニアとして案件を受けるとき、クライアントから渡される業務委託契約書には、**「違約金」や「損害賠償」**に関する条項が含まれていることがあります。
「もし納期に遅れたら違約金〇〇円」「契約違反した場合は損害を賠償する」などの一文を見て、不安になった経験がある人も多いでしょう。
結論から言えば、違約金条項があるからといって必ずしもサインしてはいけないわけではありませんが、その内容によっては大きなリスクを負うことがあります。
この記事では、フリーランスが違約金条項を確認する際の注意点と、判断・交渉のポイントを解説します。
1. 契約書における「違約金」とは何か
法律上の「違約金」は、契約を守れなかったときにあらかじめ支払う金額を決めておく取り決めのことです。
たとえば以下のようなケースでよく登場します。
- 納期に遅れた場合の遅延損害金
- 契約を途中で解除した場合の違約金
- 秘密保持義務違反や著作権侵害などの損害賠償額の予定
違約金の金額や範囲は契約自由の原則で当事者が決められますが、不当に高額な違約金や過度な責任を負う条項はフリーランスにとって大きなリスクになります。
2. サイン前に確認すべきポイント
2-1. 違約金が発生する条件
まず確認したいのは「どんなときに違約金が発生するのか」です。
- 「故意または重過失によって遅延した場合」
→ 自分の明らかな落ち度のときだけなので、比較的フェア。 - 「納期に遅れた場合は理由を問わず日数×〇円」
→ サーバートラブルや仕様変更でも自分の責任になってしまう可能性あり。 - 「契約を解除した場合は報酬総額の〇%を支払う」
→ クライアント都合で進められない場合も自分が払う羽目になるリスク。
条件が広すぎたり曖昧な場合は危険です。
2-2. 金額・上限が合理的か
- 契約金額に対して極端に高い違約金(例:報酬30万円の案件で違約金100万円)は不公平。
- 上限が明記されているか(「実際に発生した損害を限度とする」など)。
- 「一切の損害を賠償する」と書かれていると、予測不能な巨額請求のリスクあり。
目安としては、違約金は契約金額の10〜30%程度、または日割り計算で数千〜数万円程度が一般的です。
2-3. 自分ではコントロールできないリスクまで含まれていないか
- クライアント側の仕様変更や遅延で納期がズレたのに、違約金が発生するのは不合理です。
- 外部要因(災害・インフラ障害など)でも自己責任になっていないか確認。
不可抗力やクライアント都合の遅延は責任範囲から外してもらうよう交渉できます。
2-4. 契約解除のルール
- フリーランス側から中途解約する場合、違約金や残業務分の請求がどうなるかを確認。
- 一方的に契約解除された場合の補償がない場合、働いた分の報酬が支払われないリスクがあります。
「中途解約する場合は30日前に通知」「作業済み分は日割りで支払い」といった条件があると安心です。
2-5. 違約金と損害賠償のダブルリスクになっていないか
契約によっては、違約金を払ったうえでさらに損害賠償請求ができると書かれている場合があります。
この場合、実質的に無限責任になるので要注意です。
例:
「甲が本契約に違反した場合、甲は違約金として金○○円を支払うとともに、これに加えて乙に生じた損害を賠償するものとする」
→ このような条文は非常に重い責任を負うことになります。
3. 交渉・対応のポイント
3-1. 曖昧な表現は修正を依頼する
- 「故意または重過失による場合に限る」を追加する
- 「違約金の額は○万円を上限とする」と明記してもらう
- 「不可抗力の場合は免責」と追記する
多くのクライアントは、指摘すれば合理的な範囲に修正してくれることがあります。
3-2. 損害賠償との二重責任を避ける
「違約金の支払いをもって損害賠償の責任を免れる」と書いてもらえると安心です。
これにより、違約金以上の追加請求が来ないようにできます。
3-3. 交渉が難しい場合はリスクを見積もる
修正ができない場合でも、リスクを定量的に把握しておくことは重要です。
- 納期遅延の可能性がどれくらいあるか
- 金額が高額すぎないか(最悪払える範囲か)
- 不可抗力のケースまで責任を負わないか
リスクが高すぎると感じる場合は、案件自体を辞退する選択も検討しましょう。
3-4. 専門家に相談する
不安が大きい場合は、弁護士や契約書レビューサービスを利用するのも手です。
オンラインで1件数千〜1万円ほどでレビューしてくれるサービスもあります。
4. 実務でありがちなトラブル例
- 「納期に遅れたら日数×5万円」と書かれていたのを見逃し、仕様変更で遅れたのに請求された
- 契約解除の違約金が報酬の2倍になっており、辞退できなくなった
- 違約金とは別に「損害賠償請求あり」と書かれていて、想定外の追加請求を受けた
- 災害やクライアント都合の遅延でも責任を問われそうになった
まとめ
違約金条項は、「絶対にサインしてはいけないもの」ではありませんが、条件によってはフリーランスに過大なリスクを負わせる場合があります。
特に以下のポイントは必ずチェックしましょう。
- 違約金が発生する条件は合理的か(故意・重過失に限定されているか)
- 金額・上限が明記されているか(報酬額を大きく超えていないか)
- 不可抗力やクライアント都合の遅延まで責任を負わないか
- 違約金と損害賠償が二重になっていないか
- 中途解約のルールが明確か
内容が不安な場合は、修正を依頼するか、専門家に相談するのがおすすめです。
契約を理解し、自分が負えるリスクを見極めたうえでサインすれば、フリーランスとして安心して案件に取り組めます。

