— トラブルを防ぎ、安心して海外リモート案件を受けるために —
リモートワークの普及により、海外企業から直接仕事を受けるフリーランスエンジニアは増えています。
しかし、初めての海外クライアントとの契約では 「英語の契約書がよく分からない」 「重要なリスクを見落としてしまうかもしれない」 と不安になる人も多いはずです。
実際、契約内容の理解不足が原因で、報酬未払い・想定外の責任を負わされる・著作権トラブルに巻き込まれるといった事例は珍しくありません。
今回は、フリーランスエンジニアが 海外企業と契約を結ぶ際に必ずチェックしたい重要ポイント を整理して解説します。
1. 契約形態と当事者の確認
■ 契約の種類
海外クライアントとの契約は、主に以下の形態があります。
- Contractor Agreement(業務委託契約)
最も一般的。独立した事業者として業務を受託する。 - Employment Agreement(雇用契約)
フリーランス向きではないが、社員扱いで福利厚生がある場合も。 - NDA(秘密保持契約)
プロジェクト前に単独で結ぶことも多い。
まずは自分がどの立場で契約するのかを明確にし、「独立事業者(Independent Contractor)」であることを確認しましょう。
雇用契約と混同すると、税務や社会保険の扱いが複雑になります。
■ 契約相手の正式名称
- 契約書に記載された会社名・住所・登記情報が正しいか確認。
- スタートアップや個人事業主と取引する場合、実在するかをLinkedInや会社登録サイトで調べると安心です。
2. 支払い条件(Payment Terms)
海外案件で最もトラブルが多いのが支払いです。必ず以下を明記しましょう。
- 支払い単価・通貨:USD/JPY/EUR など
- 支払いサイクル:月末締め翌月払い、マイルストーン払いなど
- 請求方法:Invoice(請求書)のフォーマット、送付先
- 支払い期限:例)Invoice受領後30日以内(Net 30)
- 遅延利息の有無:Late Paymentの場合の対応を明記してあるか
ポイント
- **Net 30(請求から30日後払い)**は一般的ですが、キャッシュフロー的に厳しければ交渉も可能。
- 支払い遅延時のペナルティ条項があるかも確認しましょう。
為替リスク
ドル建てで受け取る場合、為替変動で実際の円換算額が上下します。
請求頻度を短くする・ドル口座を活用する・Payoneerを使って複数通貨保持するなどの対策を検討すると安心です。
3. 知的財産権(Intellectual Property)
エンジニアにとって最も重要なポイントの一つです。
- Who owns the code?(コードの権利は誰に帰属するか)
- Work for Hire(業務成果物はクライアントに帰属)と書かれるのが一般的。
- ただし自分のライブラリや汎用コードを流用する場合は注意。
- 再利用・ポートフォリオへの掲載可否
- 作成したコードやUIを公開・再利用できるかを確認。
- 禁止されている場合、GitHubやポートフォリオで公開できません。
ヒント
自分の既存資産(ライブラリ、テンプレート)を使うなら、「Pre-existing IP」として権利を保持する旨を明記しておくと安心です。
4. 秘密保持(NDA)
NDA(Non-Disclosure Agreement)は、クライアント情報の保護義務を定めた条項です。
- 秘密情報の範囲:ソースコード・仕様書・顧客データなど
- 保護期間:契約終了後◯年間など
- 例外:既に公知の情報、自分が独自に開発した情報などは除外されるか
あまりに範囲が広すぎると、自分の知見まで縛られるリスクがあります。
「一般的な技術知識や経験は秘密保持義務に含まれない」ことを確認しましょう。
5. 納期・成果物の定義(Deliverables & Acceptance)
- 納期(Delivery Date):曖昧な表現ではなく日付や条件を明記
- 成果物の範囲:アプリのコードだけか、ドキュメント・テストまで含むのか
- 検収(Acceptance):納品後何日以内にレビュー・承認するか
注意
検収条件が不明確だと、納品後にいつまでも「レビュー待ち」となり、支払いが遅れる可能性があります。
6. 責任範囲(Liability & Warranty)
- 責任の範囲を限定できるか
- 「重大な過失を除き、損害賠償責任は報酬額を上限とする」などの記載があると安全。
- バグ修正の範囲と期間
- 契約終了後に無償対応を求められないよう、保証期間を明記。
リスク回避のポイント
「損害賠償責任が無制限」や「第三者の損害をすべて負う」などの条項は要注意です。
7. 契約終了(Termination)
- クライアント側から一方的に解除できるか
- 契約終了時の報酬支払い(作業済み分の支払いが保証されるか)
- 通知期間(30日前など)
特に長期案件では、突然のキャンセルによる損失を防ぐため、途中解約時の取り決めを確認しましょう。
8. 紛争解決(Governing Law & Dispute Resolution)
- 準拠法(Governing Law):どの国の法律が適用されるか
- 裁判地(Jurisdiction):どこの裁判所が管轄か
- 仲裁(Arbitration):裁判ではなく仲裁で解決するか
多くの場合はクライアント本国の法律が書かれていますが、日本法に変更できるか交渉する価値はあります。
難しい場合でも、リスクを理解したうえで受注しましょう。
9. 実務での対策・チェック方法
1. 英語が苦手なら翻訳ツール+専門家のダブルチェック
- DeepLやGoogle翻訳で大枠を理解 → 気になる条文だけ弁護士に相談
- 「契約書レビュー」サービス(弁護士ドットコムなど)を活用すると安心です。
2. 雛形を把握しておく
一般的なContractor Agreementのテンプレートを事前に読んでおくと、差分が見えてきます。
3. 不利な条件は交渉する
海外クライアントでも、交渉すれば柔軟に対応してくれるケースは多いです。
特に 支払い条件・知的財産・責任範囲 は妥協しすぎないようにしましょう。
4. 証拠を残す
- 契約書は必ず署名済PDFを保存
- Slackやメールでのやりとりも保管
- 口頭合意のみは避ける
まとめ
- 契約形態・当事者・支払い条件・知財権・責任範囲は必ず確認する
- 支払い遅延や為替リスク、著作権トラブルはフリーランスの大きなリスク
- 英語契約書でも翻訳+専門家チェックを組み合わせれば対応可能
- 不利な条件は交渉できることが多いので、遠慮せず相談する
海外リモート案件は単価が高く、やりがいも大きい一方で、契約を理解せずに進めると予期せぬトラブルに発展する可能性があります。
基本的なチェックポイントを押さえておけば、安心してグローバルな仕事に挑戦でき、フリーランスとしてのキャリアも広がるでしょう。
「なんとなくサインする」ではなく、自分を守るための交渉力を持つことが、長く海外案件で活躍する第一歩です。

