はじめに
フリーランスとして案件に関わると、ほぼ間違いなく登場するのが
NDA(秘密保持契約)
です。
「とりあえずサインしてください」
「形式だけなので」
と言われることが多く、つい深く考えずに署名してしまいがち。しかし、実はかなり重要な契約であり、内容によっては大きなリスクを抱えることもあります。
この記事では、フリーランスエンジニアがNDAを結ぶ際に気をつけたい落とし穴と、安心して契約を進めるためのポイントをまとめます。
NDAって何を守る契約?
まず前提として、NDAは
発注側と受注側で共有する秘密情報を外部に漏らさない契約
です。
守るべき情報としては、
- システム仕様
- 顧客リスト
- 業務フロー
- 新規サービスの企画
- ソースコードや技術ドキュメント
などが典型例。
つまり「仕事を請けるために知る必要のある情報」が、NDAによって保護される対象になります。
ただしその中で
こちら(フリーランス)だけに不利な条項が紛れているケースもあるため、要注意です。
落とし穴①「秘密情報」の定義が広すぎる
最もよくあるのがこのパターン。
「契約時に知り得た一切の情報を秘密とする」
一見普通に見えますが、これだと
- すでに公開済みの情報
- 一般的に知られている技術情報
- 自分自身が持ち込んだノウハウ
までも守秘義務対象になり得ます。
特に危険なのが、
自分の技術や知識を、他案件で使えなくなる
状況です。
✅ 対策
以下の一文があると安心です:
「一般に公知となった情報」「受領前から保有していた情報」は秘密情報に含まれない
これは必ず確認しましょう。
落とし穴② 期間が無制限になっている
「守秘義務は永久に続く」
と書かれていたら要注意。
永遠に縛られると、将来的に似た技術や案件に関われなくなるリスクが発生します。
✅ 一般的には
2〜5年程度が妥当ラインです。
あまりに長期なら、期間交渉を検討した方がいいでしょう。
落とし穴③ 損害賠償の範囲が無制限
違反した場合の賠償について
損害を無制限に補償する
と書かれていることがあります。
スタートアップや大企業がクライアントの場合、
損害額が数千万〜数億になるケースも…。
✅ 望ましい記載例
損害賠償金額に
- 上限設定あり
- 故意・重大な過失のみ対象
といった内容があると安全です。
落とし穴④ 情報の扱いに制約が強すぎる
「第三者への開示禁止」は普通ですが、
実際の業務には以下が必要になる場合があります:
- チームメンバーへの共有
- 外部ツールへのアップロード
- GitHub/Notion/Slackなどの利用
禁止されていると仕事になりません。
✅ チェックポイント
「業務遂行上必要な範囲での開示は許可」と記載されているか確認。
落とし穴⑤ 返却・破棄義務が曖昧
契約終了後に
- 全データ削除
- メールも含めて消す
- 破棄証明書提出
などが求められる場合があります。
実務上、証拠保全のために一部保管が必要なこともあるため、
どこまで徹底すべきかをすり合わせる必要があります。
NDAは「こちらを守る契約」でもある
NDAは企業側を守る契約のように見えますが、
実際はフリーランスを守る側面も強いです。
なぜなら、
- 機密情報を不当に扱わないと証明できる
- 不当な要求を拒否しやすくなる
- 契約前の情報漏洩リスクをカバーできる
といったメリットが得られるからです。
守秘義務を果たす代わりに、安心して情報を開示してもらう契約
という認識が正しいです。
実際の流れ:署名前に確認したいポイント
ざっくりまとめると、
✅「秘密情報」の範囲は妥当か?
✅ 公知情報・自己保有情報の除外はあるか?
✅ 守秘義務の期間は長すぎないか?
✅ 損害賠償の制限があるか?
✅ 提供先の第三者範囲が合理的か?
✅ 契約終了後の扱いは現実的か?
これらのどれかが“赤信号”であれば、
修正交渉 or 弁護士相談が推奨されます。
もし不安な条項があったら?
✅ エージェント経由案件なら
エージェントに相談できます(法務が強い会社も多い)
✅ 直契約の場合
弁護士ドットコム等のスポット相談が便利です
(5,000〜1万円で解決できることも多い)
契約は「読めば読むほど不安になる」ものですが、
ひとりで抱え込まない選択肢もあります。
まとめ:NDAは慎重に、でも恐れずに
NDAはフリーランスにとって身近でありながら、
甘く見ると危険な契約です。
ただし怖がる必要はありません。
内容を理解して、必要な修正を求めるだけ
大切なのは、
不利な約束を知らずに背負い込まないこと。
フリーランスは
「自由である代わりに、自分を守る責任」も持っています。
NDAを正しく扱うことで、
安心して大きなプロジェクトにも挑戦できるようになるはずです。

