複数案件掛け持ち時の契約ルールとトラブル回避法

💼 実務・契約編

はじめに

フリーランスとして活動していると、1つの案件だけでなく複数案件を同時に進めることが珍しくありません。
収入を安定させるため、スキルを広げるため、または仕事量を調整するために、同時並行で契約を持つのは有効な戦略です。

しかし、掛け持ちは自由度が高い反面、契約トラブルやクライアントとの信頼問題を引き起こすリスクもあります。
この記事では、複数案件を掛け持つときに押さえておきたい契約上の注意点と、実務でトラブルを避けるコツを解説します。


1. 掛け持ち案件で気を付けたい契約ルール

1-1. 業務委託契約の基本を理解する

フリーランスの契約は一般的に「業務委託契約(準委任・請負)」です。
正社員のような雇用契約ではないため、掛け持ち自体は禁止されないのが基本です。

ただし、以下の契約条項があるかは必ず確認しましょう。

  • 競業避止義務(競業禁止条項)
    同業他社や競合サービスの開発に関わることを禁止する条項。
    → 類似プロダクトに関わると違反になる場合があります。
  • 専属義務(専任条項)
    「業務期間中は他の業務を行ってはならない」といった専属契約がある場合。
    → レアケースですが、週5常駐などの案件で付くことがあります。
  • 秘密保持義務(NDA)
    他のクライアントに情報を漏らすことを禁止する条項。
    → 掛け持ち時は特に気を付けるべきポイント。

1-2. 競合案件の線引きを明確に

特に注意したいのが競業避止義務です。
たとえば以下のようなケースは要注意です。

  • A社のECサイト開発をしているのに、同時にB社のECシステムの受託を行う
  • A社の新規アプリ仕様を知った状態で、似たアプリをB社の案件で作る

このような場合、契約違反と判断されるリスクがあります。
「競合の定義」が契約書にどこまで書かれているかを必ず確認しましょう。


1-3. 稼働時間・納期を明記する

複数案件を掛け持つ場合は、自分の稼働時間を正確に管理することが重要です。

  • 週〇時間程度稼働
  • 納期は〇日までに〇機能をリリース
  • コミュニケーション頻度(週1MTG、チャットの返信は24h以内 など)

これを曖昧にしたまま受けてしまうと、どちらの案件も中途半端になり、クライアントからの信頼を失う原因になります。


1-4. 納期遅延時の責任範囲を確認

契約書には「納期に遅れた場合の対応」が記載されていることがあります。

  • 遅延損害金(遅れた日数×〇円)
  • 契約解除の条件

複数案件を同時に抱えるなら、納期ペナルティが重い案件の優先度を上げるのが安全です。


2. トラブル回避の実務テクニック

2-1. スケジュール管理を徹底する

掛け持ちの最大のリスクは「時間が足りなくなる」ことです。
タスク管理ツールやカレンダーを活用して、案件ごとに稼働を見える化しましょう。

  • Toggl / Clockify:時間計測
  • Notion / Trello:タスク進捗管理
  • Google Calendar:ミーティングや納期の見える化

特に「週に何時間くらい確保できるか」を正確に把握しておくと、無理な受注を防げます。


2-2. 稼働可能時間は正直に伝える

案件を受ける前に「週20時間までなら対応可能」など、現実的な稼働量を伝えることが大切です。
過剰に請け負ってしまい納期を守れなくなると、信用を大きく損ないます。


2-3. 進捗共有をこまめに行う

  • 週1回は進捗報告をする
  • 予定より遅れそうな場合は早めに相談する

複数案件を同時に進めると、どうしても突発的な遅れが発生します。
**「遅れそうなときに即連絡する」**だけでトラブルはかなり防げます。


2-4. 情報管理を分ける

NDAを結んでいる場合は、情報の混在がトラブルの元です。

  • GitHubやGitLabのリポジトリは案件ごとに完全に分離
  • SlackやNotionなどの作業環境も案件ごとに分ける
  • 同じPCを使う場合は、フォルダ構造を厳密に分ける

「うっかり別のクライアントのコードや資料を流用してしまった」という事故を防げます。


2-5. 仕事量を見直す勇気を持つ

掛け持ちで収入を増やそうとすると、つい無理をしてしまいがちです。
しかし、キャパを超えてしまうと納期遅延・品質低下・信頼失墜に直結します。

  • 納期が重なりそうなら早めに調整を依頼する
  • 合わない案件は無理せず契約更新しない判断も必要

「続けるか手放すか」を冷静に判断できるのもプロとして大事なスキルです。


3. 契約時に交渉しておくと安心なこと

  • 競業禁止の範囲を狭めてもらう
    → 「同じ業界の他社全て」ではなく「同一の主要顧客を対象とする事業に限定」など。
  • 稼働日数・時間を明確に書く
    → 「週2日/16時間まで」などを契約書に明記。
  • 納期遅延時のペナルティを緩和する
    → 「故意または重過失の場合に限る」といった条件を入れてもらう。
  • 副業・掛け持ちの許可を取る
    → 契約書にない場合でも、事前に口頭やメールで「他案件も抱える予定がある」旨を伝えておく。

4. よくあるトラブル例

  • 競合禁止を見落とし、類似アプリを開発してしまった
    → 契約違反を指摘され、損害賠償を求められた。
  • 稼働時間を過少申告して契約、納期が守れず信用を失った
    → 次回以降の契約が打ち切りに。
  • 情報を別クライアントに誤って共有してしまった
    → NDA違反として法的措置を取られかけた。
  • 納期遅延ペナルティを知らず高額請求を受けた
    → 契約前に確認していれば回避できたケース。

まとめ

複数案件を掛け持ちするのは、収入を安定させキャリアの幅を広げる上で有効な戦略です。
しかし、同時進行だからこそ契約内容の理解と自己管理が欠かせません。

特に重要なのは以下のポイントです。

  • 契約書で 競業禁止・専属義務・秘密保持・納期ペナルティ を必ず確認
  • 稼働時間とスケジュールを明確にし、無理のない受注をする
  • 情報管理を分けてNDA違反を防ぐ
  • 進捗共有と早めの相談で信頼を維持する
  • トラブルを避けるため、必要に応じて契約条項を交渉する

掛け持ちはリスクもありますが、しっかり管理すれば大きなメリットがあります。
契約ルールと実務上のコツを押さえて、安心して複数案件をこなせるフリーランスを目指しましょう。

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