フリーランス契約における著作権の扱い方

⚖️ 法務・税務編

— コードや成果物の権利を守り、安心して仕事をするために —

フリーランスエンジニアとして案件を受けるとき、契約書で**著作権(Intellectual Property, IP)**についての記載を目にすることは多いでしょう。

  • 「このコードの権利はクライアントに帰属する」
  • 「本契約に基づく成果物はWork Made for Hireとする」
  • 「既存のライブラリは除外される」

しかし、これらを深く理解せずに契約してしまうと、思わぬトラブルにつながることがあります。
今回は、フリーランスが知っておくべき著作権の基本と、契約時のチェックポイント、実務での扱い方を解説します。


著作権の基本を押さえる

1. 著作権とは

著作権は、創作したプログラムやドキュメントを保護する権利です。
ソースコードやUIデザイン、マニュアルなども「著作物」として扱われます。

著作権には大きく以下の権利があります。

  • 著作財産権:複製・翻案・公衆送信など、経済的に利用する権利
  • 著作者人格権:氏名表示権・同一性保持権(勝手に改変されない権利)など

フリーランスが特に意識すべきは、クライアントに著作財産権を譲渡するかどうかです。

2. 著作権の発生タイミング

プログラムやデザインは作った瞬間に自動的に著作権が発生します。
特別な登録をしなくても、作成者が権利を持っている状態です。

そのため、契約書で何も取り決めがなければ、作った本人(フリーランス)に権利が残るのが原則です。


フリーランス契約でよくある著作権条項

パターン1:成果物の著作権をすべて譲渡

The Contractor hereby assigns all rights, title and interest in and to the Deliverables to the Client.

クライアントが成果物の著作権を完全に取得するパターン。
受託開発では一般的ですが、自分のコードを再利用したい場合は注意が必要です。

パターン2:利用許諾(ライセンス)を付与

The Contractor grants the Client a non-exclusive, perpetual license to use the Deliverables.

著作権は自分に残しつつ、クライアントに利用許可(ライセンス)を与える形です。
SaaSや自社サービスの受託部分で見られることがあります。

パターン3:Pre-existing IP(既存知的財産)の明記

Pre-existing materials developed by the Contractor shall remain the property of the Contractor.

自分が過去に作ったライブラリやテンプレートを使う場合は、この文言を入れることが重要です。
これがないと、過去の資産までクライアントに権利を奪われる可能性があります。


チェックすべき重要ポイント

1. 「譲渡かライセンスか」を確認する

  • 譲渡(Assignment):クライアントが完全に権利を持つ
  • ライセンス(License):クライアントが使う権利だけを得る

完全譲渡だと、後で自分のポートフォリオや他案件で同じコードを使えなくなる可能性があります。
特に個人開発アプリや共通ライブラリを持っている人は要注意です。

2. Pre-existing IPを明記する

自作のフレームワーク・UIコンポーネント・スニペットを使う場合は、「これは元から自分のもので、今回譲渡対象外」と書いておきましょう。

例:

“Any pre-existing intellectual property owned by the Contractor prior to this Agreement shall remain the property of the Contractor.”

3. 著作者人格権の扱い

日本法では著作者人格権は譲渡できません。
ただし「行使しない(Waiver)」とする契約が多いです。

“The Contractor agrees not to exercise the moral rights against the Client.”

完全に放棄はできないものの、行使しない旨を合意しておくとクライアントが安心します。

4. オープンソース利用の扱い

OSSを使う場合、そのライセンス(MIT、GPLなど)を遵守する責任は基本的に開発者側にあります。
「OSSの利用は許可されているか」「ライセンス条件を満たす義務は誰にあるか」も確認しましょう。

5. 契約終了後の利用範囲

  • 納品後の改修・二次利用を制限されないか
  • 自分のポートフォリオとして実績を公開できるか

クライアントによっては「プロジェクト名や画面キャプチャを公開しないでほしい」と求める場合もあります。事前に確認しておきましょう。


実務でできるリスク回避の工夫

1. 契約前に利用予定の資産をリスト化

「自分が既に持っているコード・ライブラリ」を一覧にしておくと、Pre-existing IPとして明示しやすくなります。

2. 雛形を理解しておく

一般的なContractor Agreementを一度読んでおくと、差分を発見しやすいです。
海外クライアント向けの標準的なIP条項を理解しておくと交渉がスムーズになります。

3. 弁護士・専門家にスポット相談

著作権に関する条項は専門性が高いため、気になる場合は弁護士レビューを依頼しましょう。
「一部だけ相談」できるサービスも増えているのでコストを抑えられます。

4. ポートフォリオ公開の許可を取っておく

成果物をポートフォリオとして紹介したい場合、契約時または納品時に明示的な許可を得ると後々安心です。


海外案件特有の注意点

  • Work Made for Hire
    米国法特有の概念で、契約にこの文言があると著作権が自動的にクライアントに帰属します。
    → 日本のフリーランスでも適用される場合があるため要注意です。
  • 準拠法(Governing Law)
    日本法か、クライアントの国の法律かによって著作権の解釈が変わることがあります。
    → 海外クライアントの場合は基本的に相手国法になることが多いので、重要な場合は専門家に確認。
  • 翻訳の難しさ
    IPや著作権関連の用語は法律特有の表現が多く、機械翻訳では誤解することがあります。
    → DeepLで概略を理解した上で、重要箇所は専門家に相談しましょう。

まとめ

  • 著作権は作った瞬間に発生し、契約で譲渡かライセンスかが決まる
  • 自分の既存コードやライブラリを使うときは「Pre-existing IP」として明示しておく
  • 著作者人格権は放棄できないが、行使しない旨を契約に書くことが多い
  • オープンソースやポートフォリオ利用可否も忘れず確認
  • 不安な場合は翻訳+専門家レビューを組み合わせて対応するのが安全

フリーランスにとって著作権の理解は、自分の資産を守りながら案件を広げるための重要な武器です。
契約のたびに不安になるより、基本を押さえておくことで交渉力が増し、安心して海外案件にも挑戦できるようになります。

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