— フリーランスエンジニアがトラブルを防ぐための実務ガイド —
フリーランスとして活動していると、副業禁止を就業規則に定めている企業からも業務委託のオファーを受けることがあります。
特に大手企業や金融・製造系のクライアントでは「副業禁止規定」がまだ根強く残っています。
しかし、こうした企業と契約する際には注意が必要です。
もしクライアント社員の副業と誤解されたり、契約形態が実質的に雇用に近いと判断されると、トラブルに発展する可能性があります。
この記事では、副業禁止企業と契約する際に気をつけるべきポイントとリスク回避の実践方法を解説します。
なぜ「副業禁止」が問題になるのか
1. 法的には副業を禁止することは難しいが…
日本では労働基準法上、原則として労働者が副業をすることを完全に禁止する法的根拠はありません。
しかし、企業は就業規則で副業を制限することが可能で、社員がそれに違反した場合は懲戒対象となることがあります。
フリーランス側にとって問題になるのは、次のようなケースです。
- クライアントが「社員に似た働き方」を求めてくる(実質的に雇用に近い)
- 契約形態が業務委託でも、勤務時間・場所・指揮命令が厳密に管理される
- あなたの契約が「偽装請負」とみなされるリスクがある
このような場合、「副業禁止=社員扱い」という誤解が発生しやすくなるのです。
2. 情報漏えいリスクの懸念
副業禁止企業は、競合他社への情報漏えいを防ぐ意図で規定を設けていることもあります。
秘密保持義務(NDA)を厳しく設定しているケースが多く、**他の案件とのコンフリクト(競業避止)**も問題になりやすいです。
契約前に確認すべき重要ポイント
1. 契約形態(業務委託か、雇用か)
まず最初に確認すべきは、自分が労働者扱いにならない契約かどうかです。
- 業務委託契約(準委任・請負)
独立した事業者として働く形。副業禁止規定は基本的に適用されません。 - 雇用契約(アルバイト・契約社員など)
雇用契約だと、就業規則が適用されるため副業が禁止される可能性があります。
注意
契約書上「業務委託」と書かれていても、勤務時間の拘束や上司からの細かい指示があると、実質的に雇用とみなされる場合があります。
これが「偽装請負」と呼ばれる状態です。
2. 競業避止義務(Non-Compete Clause)
副業禁止の代わりに、契約書に以下のような文言がないか確認しましょう。
Contractor shall not engage in any business that competes with the Client during the term of this Agreement and for one year thereafter.
- 同業他社や類似のプロジェクトに参加できなくなるリスクがあります。
- 期間が長すぎる(1年以上など)場合は交渉が必要です。
3. 秘密保持(NDA)の範囲
NDAは通常の業務委託でも結ぶものですが、範囲が広すぎる場合は要注意です。
- 公知の技術まで守秘義務に含まれていないか
- 自分のスキルや知見を今後の案件で使えなくなる表現がないか
例:
❌ Contractor shall not use any know-how obtained during this engagement in any other projects.
✅ Confidential information shall not include general knowledge or skills retained in unaided memory.
4. 契約解除条項
副業禁止を理由に突然解除されるリスクを避けるために、以下を確認します。
- 通知期間(30日など)があるか
- 作業済み分の報酬が支払われるか
- 「競業や副業を理由に即時解除できる」となっていないか
実務でのリスク回避の工夫
1. 契約書をしっかり確認する
- 「就業規則が適用される」という表現がないか
- 競業避止や副業禁止に関連する条文をチェックする
- 不安な場合は弁護士レビューを受ける(スポット相談でも可)
2. 業務時間と成果物を明確にする
- 契約書に「成果物ベースの業務」であることを明記
- 勤務時間の拘束を避ける(コアタイム・常駐義務などはリスク)
3. 副業禁止の意図をヒアリング
企業が副業を禁止している理由はさまざまです。
- 社内リソースの流出を防ぎたい
- 情報漏えいを避けたい
- 社員の労働時間管理を徹底したい
事前に背景を確認しておくと、交渉のポイントが見えやすくなります。
4. 案件の重複・競合を避ける
同じ業界や競合他社の案件を同時に受けると、トラブルの原因になります。
情報が重なる可能性がある場合は、事前にクライアントと相談するのが安全です。
5. 実績公開の制限に注意
副業禁止企業は、成果物の公開を制限することがあります。
ポートフォリオに記載できるかどうかを契約時に確認しましょう。
海外クライアントの場合
海外の企業でも「Non-Compete」「Exclusive Services」などの条項が入っていることがあります。
- Exclusive Services Contractor shall not provide similar services to other clients during the term.
(契約期間中、他のクライアントに同様のサービスを提供しない) - Non-Compete After Termination
契約終了後1年など長期間、同業他社で働けないように制限するケースも。
海外契約では範囲が広すぎることがあるため、期間を短縮したり、地理的な範囲を限定するよう交渉すると良いでしょう。
トラブル事例と回避策
- 事例1:業務委託なのに「副業禁止違反」で突然解除
- 背景:常駐勤務+フルタイム拘束で実質雇用とみなされた。
- 回避策:契約時に「独立事業者であること」を明記。勤務時間の拘束を避ける。
- 事例2:競業避止条項により他の案件を断らざるを得なくなった
- 背景:期間無制限・広範囲の競業禁止をサインしてしまった。
- 回避策:期間を半年〜1年以内に限定し、対象を特定のサービス・業界に絞る交渉を行う。
- 事例3:NDAが広すぎてポートフォリオが作れなくなった
- 背景:成果物の公開を完全に禁止する条項を了承してしまった。
- 回避策:技術的な概要や実績の記載は許可を得るなど、公開範囲を事前に協議する。
まとめ
- 副業禁止企業との契約は、雇用と業務委託の境界を明確にすることが重要
- 特にチェックすべきは
- 契約形態(業務委託か雇用か)
- 競業避止条項の有無・範囲
- NDAの範囲
- 契約解除条件(即時解除のリスク)
- 不安な場合は翻訳+専門家レビューを活用し、リスクを可視化する
- 勤務時間・成果物ベースの契約にすることで、社員扱いと誤解されるリスクを減らせる
副業禁止の企業と仕事をすること自体は違法ではありません。
しかし、契約の内容を理解せずに受けると、突然の契約終了や案件制限など、キャリアの自由度を失う可能性があります。
フリーランスとして長く安定して活動するために、契約段階でのリスクチェックと交渉力をぜひ身につけましょう。

